category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.02.26 (Sat) 02:21
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(第27話より続く)
桜咲く4月の初旬。
彼は大学院進学という3年越しの念願をようやく果たし、獣医を辞めて引っ越して、この研究室にやって来た。
医学博士号取得への道――それは宇宙へ通じると彼が信じるもの――の始まりに待っているものとは、いったい何か?
大学院に進学するなどして研究の世界に入っても、その日から研究テーマを与えられて実験を始める、ということはまずない。
それより前に、今から自分が研究しようとする分野に関し、学問的背景や基本的な知識を大まかに知っておく必要がある。
そんな訳で、初めは関連分野の論文を渡されることが多い。
大学の研究室では、関連分野の論文を読んでその大意を紹介する「論文抄読(しょうどく)会」を定期的に行うのが普通である。
文章を読んで要約を話す、というと簡単そうな気もするが、これを侮ると大変な目に遭うということを、彼は経験から知っている。
獣医師時代に毎週行われていた勉強会が、これと似たものだったのだ。
まず、論文と言えばそれは英語で書かれたものを指す。
しかも、そこに書かれているのは例えば「ラットの屈筋反射の持続的促進における起源の異なるC-一次求心線維の相対的影響」というような、極めて専門的な内容であるため、仮にそれが日本語で書かれていたとしても、その意味を理解するのは容易ではない。
英語で書かれた専門的内容を正確に理解し、かつそれを分かりやすく説明することには、高い能力が求められる。
ちなみに「大変な目」というのは具体的に何かというと、準備不足で論文の読み込みが浅く、いい加減な説明をすると「ボコボコ」にされることである。
例えば、論文中の実験方法など当然調べてあるべきことを調べていなかったり、実験結果や考察などについて矛盾する説明をしたりすると、「それどういう意味ッ?!」「言ってることおかしいでしょ?!」などと、厳しい口調で突っ込まれることがある。
ひどい場合には、発表者が一言いい加減なことをしゃべる度に、3、4人が寄ってたかって集中砲火を浴びせ、それが何十分にもわたることもあるので、見ているだけで居たたまれなくなってくる。
果たして、大学院生活のはじめに彼に与えられた課題とは何か?
教授が彼に手渡したのは――一編の論文である。
彼の最初のミッションは、9日後の論文抄読会で、読んだ内容の発表を行うことである。
彼の所属する研究室には10数人のスタッフがいるが、彼らは「お手並み拝見」とばかりに彼の出方に注目してくるに違いない。
「いっちょやってやるか!」
他はともかく英語なら十分に戦えると踏んだ彼は、「我が力を示さん」とばかりに、その論文の読み込みに全力を挙げる。
(第29話に続く)
桜咲く4月の初旬。
彼は大学院進学という3年越しの念願をようやく果たし、獣医を辞めて引っ越して、この研究室にやって来た。
医学博士号取得への道――それは宇宙へ通じると彼が信じるもの――の始まりに待っているものとは、いったい何か?
大学院に進学するなどして研究の世界に入っても、その日から研究テーマを与えられて実験を始める、ということはまずない。
それより前に、今から自分が研究しようとする分野に関し、学問的背景や基本的な知識を大まかに知っておく必要がある。
そんな訳で、初めは関連分野の論文を渡されることが多い。
大学の研究室では、関連分野の論文を読んでその大意を紹介する「論文抄読(しょうどく)会」を定期的に行うのが普通である。
文章を読んで要約を話す、というと簡単そうな気もするが、これを侮ると大変な目に遭うということを、彼は経験から知っている。
獣医師時代に毎週行われていた勉強会が、これと似たものだったのだ。
まず、論文と言えばそれは英語で書かれたものを指す。
しかも、そこに書かれているのは例えば「ラットの屈筋反射の持続的促進における起源の異なるC-一次求心線維の相対的影響」というような、極めて専門的な内容であるため、仮にそれが日本語で書かれていたとしても、その意味を理解するのは容易ではない。
英語で書かれた専門的内容を正確に理解し、かつそれを分かりやすく説明することには、高い能力が求められる。
ちなみに「大変な目」というのは具体的に何かというと、準備不足で論文の読み込みが浅く、いい加減な説明をすると「ボコボコ」にされることである。
例えば、論文中の実験方法など当然調べてあるべきことを調べていなかったり、実験結果や考察などについて矛盾する説明をしたりすると、「それどういう意味ッ?!」「言ってることおかしいでしょ?!」などと、厳しい口調で突っ込まれることがある。
ひどい場合には、発表者が一言いい加減なことをしゃべる度に、3、4人が寄ってたかって集中砲火を浴びせ、それが何十分にもわたることもあるので、見ているだけで居たたまれなくなってくる。
果たして、大学院生活のはじめに彼に与えられた課題とは何か?
教授が彼に手渡したのは――一編の論文である。
彼の最初のミッションは、9日後の論文抄読会で、読んだ内容の発表を行うことである。
彼の所属する研究室には10数人のスタッフがいるが、彼らは「お手並み拝見」とばかりに彼の出方に注目してくるに違いない。
「いっちょやってやるか!」
他はともかく英語なら十分に戦えると踏んだ彼は、「我が力を示さん」とばかりに、その論文の読み込みに全力を挙げる。
(第29話に続く)
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category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.02.25 (Fri) 01:31
DATE : 2011.02.25 (Fri) 01:31
(第26話より続く)
もし、時間なるものが存在するならば。
それは今から137億年前。
見る者はおろか、銀河も星も、時間も空間すらもない「無」から、我々のこの宇宙は忽然と現れる。
想像を絶するほど高温・高密度なエネルギーの塊である「それ」が、これまた想像を絶するほど小さなある一点から、比類なく凄まじい勢いで膨張を始める。
1000億分の1秒後には光子が生まれ、1万分の1秒後には陽子が生まれ、1分後には原子核が生まれる。
そこは、光の海。
誰も見る者のない中、それはただただ黙々と、しかしおそらく激烈に、怒涛の如く膨張を続ける。
そして38万年という時を経て、ようやく安定した原子が生まれる。
水素やヘリウムが互いに引き合って雲をつくり始めると、密度が高くなったその場所にますます原子が集まってきて高温・高圧状態となり、ここに初めて輝く恒星が生まれる。
この宇宙もまた、いわば泡沫のようなものではないか?
川面に次々と現れては消える、球形の相似な、無数のうたかた。
大志を抱いて語学に燃える日々も、苛烈な仕事に明け暮れる日々も、海上で風に吹かれるときも、マラソンを走るときも、一条の稲妻のときも、彼の祖父の生涯も、そしてまた、彼自身の生涯も――
我々がビッグバンと呼ぶ宇宙の始まりから、10億年後には原始銀河が現れ、90億年後には太陽系が誕生し、その数億年後には地球に原始生命が生まれる。
そして植物が生まれ、動物が生まれ、人類が生まれる。
ここは、銀河が2500個ほど集まった乙女座銀河団の辺境にある、局部銀河群の中の銀河系の太陽系第3惑星、地球。
そこに棲む生命体の暦でいう、西暦2000年の4月3日。
それは、彼の新しい時代の幕開けである。
「まるで違う星系のような」とまでいえば言い過ぎだろうが、それでもこれまでとは著しく違う世界に、今まさに彼は行こうとしている。
その惑星の海に浮かぶ小さな島の地平に、太陽という名の恒星が、ゆっくりと昇ってくる。
獣医師時代には自宅から職場へ自転車で10分程度で行けたのだが、大学院まで約2時間の通学が必要になった今、彼は朝6時には起床せねばならない。
おしくらまんじゅう状態の通勤電車などに乗るのは、いったい何年ぶりだろう――。
しかし、彼が感じているのは不満などではない。
3年前に、経済的な理由から断念せざるを得なかった、彼が考えるところの、宇宙へ通ずる最も確かな道。
大学の食堂で宇宙を目指す決意をしたあの日から、7年の歳月を経た今、彼はようやくその道を歩み始めたのだ。
獣医師時代には、月に1回休日を削って、3時間ほどかけて高速道路で通っていた、環境医学研究所。
彼の実家からは、満員電車で1時間少し行った後、緩い上り坂を20分ほど歩いていくと、そこに到着する。
研究室に着いて初日のあいさつをすると、そこに用意されていたのは、まだ何も載っていない引出し付きの机と、空っぽのロッカーである。
(第28話に続く)
もし、時間なるものが存在するならば。
それは今から137億年前。
見る者はおろか、銀河も星も、時間も空間すらもない「無」から、我々のこの宇宙は忽然と現れる。
想像を絶するほど高温・高密度なエネルギーの塊である「それ」が、これまた想像を絶するほど小さなある一点から、比類なく凄まじい勢いで膨張を始める。
1000億分の1秒後には光子が生まれ、1万分の1秒後には陽子が生まれ、1分後には原子核が生まれる。
そこは、光の海。
誰も見る者のない中、それはただただ黙々と、しかしおそらく激烈に、怒涛の如く膨張を続ける。
そして38万年という時を経て、ようやく安定した原子が生まれる。
水素やヘリウムが互いに引き合って雲をつくり始めると、密度が高くなったその場所にますます原子が集まってきて高温・高圧状態となり、ここに初めて輝く恒星が生まれる。
この宇宙もまた、いわば泡沫のようなものではないか?
川面に次々と現れては消える、球形の相似な、無数のうたかた。
大志を抱いて語学に燃える日々も、苛烈な仕事に明け暮れる日々も、海上で風に吹かれるときも、マラソンを走るときも、一条の稲妻のときも、彼の祖父の生涯も、そしてまた、彼自身の生涯も――
我々がビッグバンと呼ぶ宇宙の始まりから、10億年後には原始銀河が現れ、90億年後には太陽系が誕生し、その数億年後には地球に原始生命が生まれる。
そして植物が生まれ、動物が生まれ、人類が生まれる。
ここは、銀河が2500個ほど集まった乙女座銀河団の辺境にある、局部銀河群の中の銀河系の太陽系第3惑星、地球。
そこに棲む生命体の暦でいう、西暦2000年の4月3日。
それは、彼の新しい時代の幕開けである。
「まるで違う星系のような」とまでいえば言い過ぎだろうが、それでもこれまでとは著しく違う世界に、今まさに彼は行こうとしている。
その惑星の海に浮かぶ小さな島の地平に、太陽という名の恒星が、ゆっくりと昇ってくる。
獣医師時代には自宅から職場へ自転車で10分程度で行けたのだが、大学院まで約2時間の通学が必要になった今、彼は朝6時には起床せねばならない。
おしくらまんじゅう状態の通勤電車などに乗るのは、いったい何年ぶりだろう――。
しかし、彼が感じているのは不満などではない。
3年前に、経済的な理由から断念せざるを得なかった、彼が考えるところの、宇宙へ通ずる最も確かな道。
大学の食堂で宇宙を目指す決意をしたあの日から、7年の歳月を経た今、彼はようやくその道を歩み始めたのだ。
獣医師時代には、月に1回休日を削って、3時間ほどかけて高速道路で通っていた、環境医学研究所。
彼の実家からは、満員電車で1時間少し行った後、緩い上り坂を20分ほど歩いていくと、そこに到着する。
研究室に着いて初日のあいさつをすると、そこに用意されていたのは、まだ何も載っていない引出し付きの机と、空っぽのロッカーである。
(第28話に続く)
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category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.02.21 (Mon) 01:42
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(第25話より続く)
1999年の8月頃になると、彼も迫り来る医学研究科の入学試験に備え始める。
環研に出入りする前は、それに受かるかどうか大いに懸念していた彼だが、その実情について教授から話を聞くと、懸念は少し和らいだ。
というのは、試験は大きく英語と専門分野の2科目に分かれているのだが、専門分野の採点はその教授自らが行うというのだ。
大学の研究室としては、バリバリと研究を進める若い労働力を常に求めているといってよい。
したがって、研究をやってみたいという者がある程度「行けそう」であれば、その者を採ってみたいと考える。
どうやら落とすのが目的の試験ではないらしい。
彼の動物病院では獣医師は通常3年契約であるから、3年目の獣医師が次の仕事をどうするかということが、自然と話題になる。
彼が大学院受験を考えていることを話すと、獣医師達は概ね「まぁ頑張れ」という反応だったが、看護師の中には「獣医が医学研究科になんかホンマに行けんの?!」という態度を露骨に表す者もある。
彼は内心「まぁ見てろ」と思いつつ、専門科目に重点を置いて対策を行う。
この頃の彼が、将来のビジョンを模索していた形跡が窺える。
経済的には、2002年までの財政プランを立て、奨学金を借りる必要性を認識している。
キャリアパス的には、最も理想的なコースとして、通常4年かかる課程を3年間で短縮卒業して宇宙開発事業団の研究者となり、2年ほどして宇宙飛行士候補者選抜に応募することを考えている。
経済的プランはいいとして、キャリアパスは傍目には大変楽観的で無謀に映るものだが、何も考えていないよりはマシといえよう。
1999年9月30日、彼は某大学の大学院医学研究科の入学試験を受験する。
その手応えは、英語も専門科目もぼちぼちというところであった。
後日彼は、10月26日付の合格通知を郵便で受け取った。
彼はそのことを家族や動物病院のスタッフに伝えたが、それに加えてもう一人知らせたのは、彼の担当患者である腎不全ネコの飼い主である。
この時既に彼と彼女はプライベートで何回か逢っていたが、大学院合格によって彼がその地を離れて遠方に行くことを知っても、彼女はとりあえずそれを祝福した。
大学院合格が決まると、彼の頭の中は来年の4月から新天地で始まる研究生活のことで次第に占められていく。
順調に行けば恐らくもう戻ってこないであろう小動物臨床の世界で、悔いのない仕事をやり遂げて行こう。
2000年の3月末、彼が獣医師として最後に担当したのは、奇しくも彼が最もやりがいを感じている心臓弁膜疾患の患者だった。
彼が3年間を過ごした動物病院での最後の夜、2年目の2人の獣医師が彼を飲みに誘った。
獣医師がローテーションで休みを取っていく彼の動物病院では、獣医師達の休みが合わないので、休日に一緒に遊びに行くということが難しい。
したがって、その動物病院ではスタッフの異動に際しても全員で歓迎会や送迎会を行うことが不可能で、それはやむを得ぬことではあるが、さびしいには違いない。
臨床獣医師から――荒っぽい言い方をすれば「足を洗って」――医学部に去って行く彼は、考え方によっては獣医界の「裏切り者」ともいえる。
さらに、重症患者や急患や、その他諸々のことでストレスに事欠かないその厳しい職場で、彼が彼らに対していつもいい人であったわけではないことを、彼自身よく分かっていた。
それでもなお且つわざわざ彼を送ってくれることが、彼にとってどれほど嬉しいことか――。
その最後の夜の居酒屋で、動物病院のスタッフでは彼らにだけ、彼は自分が宇宙を目指していることを打ち明ける。
彼らは、それを聞いて驚きを隠さなかったが、それを応援した。
そして、彼が宇宙を目指していることを告げていたもうひとりの人は、彼の担当患者の彼女である。
此くして、彼の3年間の獣医師時代は幕を閉じ、明日からは大学院での新しい時代が始まる。
(第27話に続く)
1999年の8月頃になると、彼も迫り来る医学研究科の入学試験に備え始める。
環研に出入りする前は、それに受かるかどうか大いに懸念していた彼だが、その実情について教授から話を聞くと、懸念は少し和らいだ。
というのは、試験は大きく英語と専門分野の2科目に分かれているのだが、専門分野の採点はその教授自らが行うというのだ。
大学の研究室としては、バリバリと研究を進める若い労働力を常に求めているといってよい。
したがって、研究をやってみたいという者がある程度「行けそう」であれば、その者を採ってみたいと考える。
どうやら落とすのが目的の試験ではないらしい。
彼の動物病院では獣医師は通常3年契約であるから、3年目の獣医師が次の仕事をどうするかということが、自然と話題になる。
彼が大学院受験を考えていることを話すと、獣医師達は概ね「まぁ頑張れ」という反応だったが、看護師の中には「獣医が医学研究科になんかホンマに行けんの?!」という態度を露骨に表す者もある。
彼は内心「まぁ見てろ」と思いつつ、専門科目に重点を置いて対策を行う。
この頃の彼が、将来のビジョンを模索していた形跡が窺える。
経済的には、2002年までの財政プランを立て、奨学金を借りる必要性を認識している。
キャリアパス的には、最も理想的なコースとして、通常4年かかる課程を3年間で短縮卒業して宇宙開発事業団の研究者となり、2年ほどして宇宙飛行士候補者選抜に応募することを考えている。
経済的プランはいいとして、キャリアパスは傍目には大変楽観的で無謀に映るものだが、何も考えていないよりはマシといえよう。
1999年9月30日、彼は某大学の大学院医学研究科の入学試験を受験する。
その手応えは、英語も専門科目もぼちぼちというところであった。
後日彼は、10月26日付の合格通知を郵便で受け取った。
彼はそのことを家族や動物病院のスタッフに伝えたが、それに加えてもう一人知らせたのは、彼の担当患者である腎不全ネコの飼い主である。
この時既に彼と彼女はプライベートで何回か逢っていたが、大学院合格によって彼がその地を離れて遠方に行くことを知っても、彼女はとりあえずそれを祝福した。
大学院合格が決まると、彼の頭の中は来年の4月から新天地で始まる研究生活のことで次第に占められていく。
順調に行けば恐らくもう戻ってこないであろう小動物臨床の世界で、悔いのない仕事をやり遂げて行こう。
2000年の3月末、彼が獣医師として最後に担当したのは、奇しくも彼が最もやりがいを感じている心臓弁膜疾患の患者だった。
彼が3年間を過ごした動物病院での最後の夜、2年目の2人の獣医師が彼を飲みに誘った。
獣医師がローテーションで休みを取っていく彼の動物病院では、獣医師達の休みが合わないので、休日に一緒に遊びに行くということが難しい。
したがって、その動物病院ではスタッフの異動に際しても全員で歓迎会や送迎会を行うことが不可能で、それはやむを得ぬことではあるが、さびしいには違いない。
臨床獣医師から――荒っぽい言い方をすれば「足を洗って」――医学部に去って行く彼は、考え方によっては獣医界の「裏切り者」ともいえる。
さらに、重症患者や急患や、その他諸々のことでストレスに事欠かないその厳しい職場で、彼が彼らに対していつもいい人であったわけではないことを、彼自身よく分かっていた。
それでもなお且つわざわざ彼を送ってくれることが、彼にとってどれほど嬉しいことか――。
その最後の夜の居酒屋で、動物病院のスタッフでは彼らにだけ、彼は自分が宇宙を目指していることを打ち明ける。
彼らは、それを聞いて驚きを隠さなかったが、それを応援した。
そして、彼が宇宙を目指していることを告げていたもうひとりの人は、彼の担当患者の彼女である。
此くして、彼の3年間の獣医師時代は幕を閉じ、明日からは大学院での新しい時代が始まる。
(第27話に続く)
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