Web制作 忍者ブログ

DATE : 2024.03.19 (Tue) 19:10
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ
 ←クリック一発ずつ、清き
  一票をお願いします!


DATE : 2011.02.25 (Fri) 01:31
第26話より続く)

もし、時間なるものが存在するならば。
それは今から137億年前。
見る者はおろか、銀河も星も、時間も空間すらもない「無」から、我々のこの宇宙は忽然と現れる。

想像を絶するほど高温・高密度なエネルギーの塊である「それ」が、これまた想像を絶するほど小さなある一点から、比類なく凄まじい勢いで膨張を始める。
1000億分の1秒後には光子が生まれ、1万分の1秒後には陽子が生まれ、1分後には原子核が生まれる。
そこは、光の海。

誰も見る者のない中、それはただただ黙々と、しかしおそらく激烈に、怒涛の如く膨張を続ける。
そして38万年という時を経て、ようやく安定した原子が生まれる。
水素やヘリウムが互いに引き合って雲をつくり始めると、密度が高くなったその場所にますます原子が集まってきて高温・高圧状態となり、ここに初めて輝く恒星が生まれる。

この宇宙もまた、いわば泡沫のようなものではないか?
川面に次々と現れては消える、球形の相似な、無数のうたかた。
大志を抱いて語学に燃える日々も、苛烈な仕事に明け暮れる日々も、海上で風に吹かれるときも、マラソンを走るときも、一条の稲妻のときも、彼の祖父の生涯も、そしてまた、彼自身の生涯も――



我々がビッグバンと呼ぶ宇宙の始まりから、10億年後には原始銀河が現れ、90億年後には太陽系が誕生し、その数億年後には地球に原始生命が生まれる。
そして植物が生まれ、動物が生まれ、人類が生まれる。
ここは、銀河が2500個ほど集まった乙女座銀河団の辺境にある、局部銀河群の中の銀河系の太陽系第3惑星、地球。

そこに棲む生命体の暦でいう、西暦2000年の4月3日。
それは、彼の新しい時代の幕開けである。
「まるで違う星系のような」とまでいえば言い過ぎだろうが、それでもこれまでとは著しく違う世界に、今まさに彼は行こうとしている。

その惑星の海に浮かぶ小さな島の地平に、太陽という名の恒星が、ゆっくりと昇ってくる。
獣医師時代には自宅から職場へ自転車で10分程度で行けたのだが、大学院まで約2時間の通学が必要になった今、彼は朝6時には起床せねばならない。
おしくらまんじゅう状態の通勤電車などに乗るのは、いったい何年ぶりだろう――。

しかし、彼が感じているのは不満などではない。
3年前に、経済的な理由から断念せざるを得なかった、彼が考えるところの、宇宙へ通ずる最も確かな道。
大学の食堂で宇宙を目指す決意をしたあの日から、7年の歳月を経た今、彼はようやくその道を歩み始めたのだ。

獣医師時代には、月に1回休日を削って、3時間ほどかけて高速道路で通っていた、環境医学研究所。
彼の実家からは、満員電車で1時間少し行った後、緩い上り坂を20分ほど歩いていくと、そこに到着する。
研究室に着いて初日のあいさつをすると、そこに用意されていたのは、まだ何も載っていない引出し付きの机と、空っぽのロッカーである。

第28話に続く)

拍手[6回]

PR

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ
 ←クリック一発ずつ、清き
  一票をお願いします!

[282] [281] [280] [279] [278] [277] [276] [275] [274] [273] [272]
●この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
●この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
忍者ブログ [PR]
Twitter
Profile

Ken Takahashi

★赤い酔星
 (飲むと通常の3倍陽気になる)
★医学博士
★鉄人
★ペーパー獣医
❤I love House music!

■人生一度きり、悔いのないよう
大きな目標を目指したい。
■座右の銘:
意志あるところに道はひらける
最新コメント
[11/13 SLT-A77]
[09/03 きゅー]
[05/30 Ken Takahashi]
[05/30 あす]
[05/27 マエノメリ]
Counter

Since 16 Mar 2006.