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DATE : 2011.01.31 (Mon) 23:51
第11話より続く)

「誰か来てッ!!」
受診患者がエマージェンシーと見るや、動物病院全室にこだまする号令が診察室から飛ぶ。
他の診察室や処置室、入院室にいる獣医師や看護師はもちろん、時には受付嬢までもが飛んで行って、彼らの「戦争」が始まる。

瞬時に集まったスタッフは直ちにリーダーに気管カニューレと喉頭鏡を手渡し、患者の保定に回って気道確保を行う。
同時に他の者は輸液の準備を行い、気道確保チームの隙間をかいくぐるように静脈に手早く留置針を入れる。
次の瞬間には心電図が取り付けられ、必要と見るやAEDの電極を胸部に当てて「行くぞ!」の一言で電気ショックが走る。

一秒が生死を分ける現場で、時には8人に上る一隊が急患を取り囲んで救命を行うその姿は、嵐さながらである。
ある意味で軍隊のようなその組織では、チームワークは絶対であり、リーダーはその判断に全ての責任を負い、従うフォロワー達は彼あるいは彼女の意思を的確に汲み取って最大限の援護をしなければならない。
宇宙ステーションのクルーに求められるリーダーシップとフォロワーシップも、これと完全な別物ではあるまい。

彼の獣医師就任から1年が経ち、彼の病院は数人の新人を迎えた。
就任時には「戦場」で何をしていいか分からず、ただウロウロして「上官」の邪魔にならないようにするのが精一杯だった彼も、今では実戦を戦う戦力に成長していた。
逆にそうでもなければ、「戦力外通告」を受けていたに違いないが。

精神的に多少の余裕ができた彼は、英語に加えて数学と歴史と漢字の勉強も始めた。
宇宙飛行士に求められる「教養」を身につけるためである。
他はともかく数学などは獣医の仕事と完全に無縁な上、普通は人が好き好んでするものではないので、もし彼がそんなことをせっせとしていることが病院のスタッフに知れたら、彼は狂人扱いされたかもしれない。

ところで、英語も獣医には関係あるまいと思われるが、こちらは意外にも絶大な威力を発揮する。
彼の病院とその関連病院では、海外の最新文献を用いた合同勉強会を毎週開いており、その当番に当たった者はそれを訳して発表することが求められる。
彼ははじめ気付かなかったのだが、獣医師の腕では下っ端の彼も、英語に関してだけは、彼の上司や他院の院長を凌駕して追随を許さなかった。

彼の上司の一人である副院長は、獣医臨床における知識と技術の両面において他院の獣医師達からも一目置かれる鬼才であるが、時折彼を叱責するその副院長も、彼の英語力だけは認めざるを得ない。
ケンタッキー留学時代には実用から程遠かった彼の英語は、5年の年月の間に少しずつながら確実に鍛えられ、今や彼の一本の剣となっていた。
しかし彼は、その剣の力にまだまだ満足しているわけではない。

第13話に続く)

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