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DATE : 2011.03.05 (Sat) 04:14
第34話より続く)

盛夏の真っ青な空の下、太陽に輝くワインレッドメタリックのシルビアが、眺めのよい高速道路を走り抜けていく。
サンルーフ越しに大空を臨み、南に向かって爽快な速度で駆けるその車は、彼が獣医師3年目になけなしの金をはたいて買ったものだ。
中古ではあるが、外観も内装も比較的美しく、踏めば応えるその車を彼はたいそう気に入っている。

待ち合わせの場所で人を乗せると、車は海に向かって走り出す。
今日は、彼らが以前から計画していた旅行の日である。
彼らが初めて会ってから、一年ほどが過ぎただろうか。

彼が獣医師を辞めて実家に引っ越した後も、どちらが言い出したか、彼らは月に一回会っている。
考えてみれば不思議なことだ。
なぜなら腎不全の患者はとうの昔にこの世を去り、彼女は既にその飼い主ではなく、もちろん彼はもはやその猫の担当の獣医師などではないのだから。

それではなぜ彼は彼女に会うのか。
彼が女性を考える上で最も重要なことは、自分が宇宙を目指していることを、その人が理解してくれるか否かに他ならない。
いま、彼から宇宙を取ったらいったい何が残るというのか?

***

4年前に獣医学生だった頃、彼は「第2の女」をドライブに連れ出したことがある。
それは、彼が「人生唯一の絶望」に沈んだ後の話である。
実は、その後しばらくの間、彼らの関係が完全に絶たれたわけではなかった。

ワインレッドメタリックと比べると明らかに見栄えしない車ではあるが、それでも初夏の清々しい空気の中を走るのは気持ちがいい。
隣に乗っているのが、相変わらず瀟洒で美しい女であればなおさらである。
その車を走らせながら、軽い会話の流れの中で、彼は自分が宇宙を目指していることを彼女に知らせた。

すると彼女はこう言った。
「先輩ならきっとなれますよ。がんばってください。」
彼女は遠くを見ながら笑みを浮かべていたが、その笑みが心からのものではないことを、彼は重々感じていた。

***

第一と第二の女も含め、彼は今までに様々なひとに出会ったが、一度としてその関係に満足したことはなかった。
彼の失意のうちに消えた泡沫は、両手の指では数え切れない。
それはそれとして、ではこの先に現れる泡沫が、彼に満足を与える保証などどこにあろうか?

いま彼の車の助手席に座っている人は、テレビで宇宙関連の番組があれば彼に連絡し、新聞に宇宙の話が載っていれば、わざわざそれを切り抜いて彼に郵送で送ってくれる。
この広大な宇宙の中で、実の親すら懐疑を抱く彼の生き方をありのままに受け入れる存在が、いったいどれだけあるというのか?
毎月一回彼女に会うごとに、彼の思いは強まっていく。

この人の他に、自分にはいったい誰があるのだろう――?


秋の素晴らしく晴れた日、洒落たカフェや観覧車が立ち並ぶあか抜けたハーバーランドで、彼は今や彼にとって疑いもない「第三の女」に会う。
ふたりは椅子に腰掛けて、赤く美しい夕陽が、静かなさざ波の海にゆっくりと沈んでいくのを見ている。
水面にきらきらと映る太陽の光を見つめながら、彼が彼女に伝えたのは、約束の言葉であった。

第36話に続く)

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Ken Takahashi

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 (飲むと通常の3倍陽気になる)
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■座右の銘:
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