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DATE : 2011.03.08 (Tue) 01:08
第36話より続く)

彼が所属する環境医学研究所には宇宙医学実験センターがあるが、それ以外にも宇宙関連の実験を行っている研究室がある。
彼の研究室も「宇宙環境利用に関する地上研究の公募」に応募しているから、もしこれに採用されればその仲間入りとなる。
このように宇宙との関わりが大きい環研では、口コミや掲示などで自然と宇宙関連のニュースが入って来る。

彼がMGLABのセミナーについて知ったのも、やはり環研でであろう。
MGLABというのは、地上で無重力状態を作り出す「落下棟」という実験設備を運用する会社である。
地下150mまで掘られた垂直なトンネルに実験試料を入れたカプセルを落とすと、4秒間の無重力(正確に言えば微小重力)状態を作り出すことができる。
遊園地にあるフリーフォールもこれと同じ原理で、自由落下により1秒ほどの無重力状態ができる。

落下棟で行われる実験は、将来的に宇宙での実験を視野に入れているといってよい。
「もしかしたら自分の研究を宇宙分野と関連付けることができるかもしれない。」
そう考えた彼は、MGLABのセミナーの情報を得て、早速参加を申し込んだ。
そこに宇宙との距離を縮められそうな微かな匂いを感じたのかもしれない。

2000年12月12日、彼はMGLABの「無重量セミナー」に参加する。
誘う相手もない彼は独りきりだが、自分の目標のために何かをしていると思うと、独り未知の場所に乗り込む一歩一歩に静かな喜びが感じられる。
やがて会場に着くと、宇宙関連の研究者達であろうか、そこには数十人の参加者が集まっていた。

セミナーの発表者の一人に、宇宙医学の研究者がある。
彼のお目当ては、彼の母校の医学部で生理学研究室の教授をしているその人物の話である。
無重力状態での自律神経の活動をラットを用いて調べるというその話は、彼の期待を裏切らず興味深いものであった。

落下棟を使った学術研究のセッションが終わると、次は懇親会である。
見知らぬもの同士が話す機会ができるように、このような懇親会はたいてい立食形式になっている。
立食形式でカジュアルとはいえ、あまり年齢が離れている人と話すのはやはりしんどいものだが、辺りを見渡してみると、彼と同年代の男があるではないか。

その二人はどちらからともなく近寄ったかと思うと、互いの所属や研究などについて話し始めた。
彼は、お目当ての教授の研究室の学生であるというその男が日頃行っている宇宙医学の研究の話を、羨望の眼差しで聞き惚れる。
宇宙に関わっている者はたいていそうなのだが、その男もご多分に漏れず、宇宙に対する思い入れが言葉の端々にあふれている。

しばらくすると、その学生の男は2年ほど前にオランダで行われた国際宇宙連盟会議(IAC)の話を始めた。
何でもそれは、NASAなど世界の宇宙関係機関が参加する、世界最大の宇宙関連会議らしい。
それに参加すること自体凄いことだが、さらに驚いたことに、その男は宇宙開発事業団(NASDA)の選抜によりその会議に派遣されたという。

「NASDAによるIACへの学生派遣事業は来年もあるんじゃないか」とその男は言う。
日本版NASAとも言うべきNASDAは、日本人宇宙飛行士候補者の選抜を行う機関であるから、そこが主催するIAC派遣事業に彼が興味ないはずがない。
海外で行われる宇宙関連の最大の会議に、NASDAの選抜で派遣される人達がいる――それはただならぬ者達に違いない。

彼には、それが「金色の者達」の如く映る。
いま彼の眼前にあり、まばゆいばかりのオーラを放っているその男も、いずれ宇宙飛行士候補者選抜を受験するのだろうか。
8年前に宇宙を目指す決意をしてから今まで、彼は彼と同じく宇宙を目指す者についてただ想像するのみであったが、ここに来て初めて、おそらくそれに違いないものに遭遇し、かつそれを目前にして相対したのである。

彼が自宅に着いたのは深夜だったが、彼は早速ネットでNASDAのIAC派遣事業について調べずにはいられなかった。

第38話に続く)

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