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DATE : 2011.02.14 (Mon) 00:59
第20話より続く)

高校時代に陸上部に所属していたにもかかわらず、100m走や200m走を専門としていた彼は、長距離は全くの素人だった。
毎日2.7km程度――仮に往復で5.4kmとしても――を、ペースも特に考えずただ走るだけでは、ハーフマラソンの練習には全く不十分だと言わざるを得ない。
取敢えずレース出場を決めるという、その意気や良し。果たして、その結果や如何に。

1999年1月24日、高槻シティハーフマラソン。
スタートの号砲が鳴ってからしばらくは、彼も問題なく走れた筈である。
しかし10kmを超えてくると、長距離の走り込みを十分にしていない彼の身体は、次第に問題を現し始める。

大腿の筋肉と膝関節とに、痛みが走る。
初めは大したものではないのだが、一歩一歩、着地を繰り返す度に、少しずつ、しかし確実に、それは増していく。
気がついた頃には、彼は痛みのあまり歯を食いしばっていた。

しかも悪いことに、途中から降ってきたのは雨である。
1月末というただでさえ寒い天候に、追い討ちをかけるような冷たい雨が。
経験を積んだランナーであれば、寒さ対策も雨対策もしているに違いないが、ド素人の彼は、想定外の事態にただただ蹂躙されるばかりだ。

思えば、3年前に美しい川沿いで16kmを走ったのは、肌を引き締める涼しく澄んだ空気が心地よい、雲ひとつなく晴れた素晴らしい秋の日だった。
それが今はどうだ。
鉛の如き重苦しい雲の垂れこめる、鬱陶たる灰色の景色の中、それでなくても痛い筋と関節とに、雨の寒さと冷たさが、地獄の呵責を容赦なく浴びせてくる。

あまりの苦痛に、彼は恥も外聞も捨てて「うぅっ!」という呻き声を上げる。
何を思いながら彼は行くのか?
数100m毎に現れる「ゴールまであとxx km」という表示に、すがるような痛々しい視線を浴びせながら足を引きずる彼は、もう既に「走って」などいない。

ただ独り出場を決めて、ただ独り走る彼に、誰も、一時も、「走れ」などとは言っていない。
嫌ならやめてしまえばいい。
それでもなぜ彼はまだ行くのか?

足を引きずりながら辛うじて前の方向に行く彼の速度は、もはや早歩きよりも遅かろう。
そんな蝸牛のようなのろいペースでも、一歩一歩進めば、確実にゴールとの距離は縮まっていく。
スタートから2時間8分24秒後、雨に濡れた彼の冷たい身体が、辛うじてゴールをくぐった。

それはさんざんなレースであったが、兎にも角にも完走は完走に違いなかった。
「やったんだ・・・」
痛みでボロボロな足を引きずりつつも、わずかな達成感に浸りながら、彼は帰路につく。

第22話に続く)

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