category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.03.27 (Sun) 02:23
DATE : 2011.03.27 (Sun) 02:23
(第44話より続く)
医学博士号を取得すべく大学院で研究を進める彼は、フランスのトゥールーズで開催される国際宇宙連盟会議(IAC)を3週間後に控え、このところ順風満帆の実験にさらに追い風を送るべく、その日も夜通しとなる実験を始めていた。
時は2001年9月11日、日本時間22時頃、ニューヨークの世界貿易センタービルに航空機が激突したという報せは、研究室で実験中の彼をよそに日本のニュースでも直ちに速報された。
アメリカ東部時間の午前9時、こんなによく晴れた日に飛行機が誤って事故を起こすものかと人がいぶかる中、煙の立ち上る摩天楼を見上げて騒然となっている数多の群集のまさに目の前で、――
“Oh, my god!!”
ついさっき飛行機が突っ込んで煙を上げているツインタワーのもう一棟が爆発炎上すると、その場に居合わせた人はおろか、ライブ映像を見ている全世界までもが、一瞬にして戦慄と驚愕のどん底に叩きつけられた!
堂々と聳え立つ「アメリカの富の象徴」にジャンボジェットが突っ込むなどというありえない光景に人々は呆然としたが、まさかそのわずか20分後に、空からもう一機の旅客機が現れて残りのもう一棟に真正面からとどめの激突玉砕をしようなど、この世のいったい誰が――首謀者オサマ・ビンラディン一味を除いて――想像しただろう?!
さらに30分後にペンタゴンがボーイング757の突入を受けると、これはテロリストが引き起こしたアメリカに対する戦争であるということが、全世界の人々に知れ渡ることになった。
後にアメリカ同時多発テロと呼ばれるこの世紀の大事件は、世界の歴史という大河の流れさえ変えずにはおかないのだが、彼の運命という小さな支流にもまた不吉なうねりを送った。
「IACは大丈夫か?!」
企業は外国出張を禁止し、個人は海外旅行を自粛するなど、地球には不安と混乱の空気が充満しているのだが、彼にとって最大の関心事は、IACが予定通りに行われるかどうかなのだ。
テロが勃発する1週間前、IAC派遣プログラムに関する説明会が9月20日に浜松町で行われる旨の連絡が事務局からあった。
裕福でない彼にとって遠方から東京に出向くのは気軽ではないが、説明会にはNASDAの担当者も参加するとのことなので、出席する方が人脈を築く上で有利だと考えた彼は、ためらわずにそれに参加した。
会場では「使節団」の学生達が初めて顔を合わせ、IACへの期待を互いに語り合ったが、NASDAの担当者からはテロの影響で派遣プログラムが中止となる可能性に加え、最悪の場合そもそもIACの開催自体がキャンセルされる可能性があることを伝えられた。
IAC開催が近づくと、Join us at IAF2001事務局からは様々な連絡のメールが送られてくるが、その末尾には毎回「事前に中止となった場合はすみやかにご連絡します(注:日本時間9月○日○時現在では、そのような判断にはなっておりません)」と書かれている。
彼はそれを見てホッと安心する反面、中止という最悪の結果を恐れ続けなければならないことも再確認させられるのだった。
さらに事務局は学生達に、この非常事態の真っ最中に飛行機に乗ってIACの開催地であるフランスに行く覚悟があるかどうかを、両親の賛同をも含めて確認してきた。
彼は、自分の意志に如何なる変化もないことを即答した。
彼が恐れるのは、テロに巻き込まれて生命の危険に晒されることではない。
彼が最も恐れることは、むしろ9年間の努力の果てにようやく手にした宇宙の世界への扉が、無残に閉じられてしまうことなのだ。
9月30日、世界中がピリピリとした緊張感に包まれる中、最後の土壇場でキャンセルもあり得ると覚悟しつつ、彼はIAC派遣プログラムの集合場所である成田空港へと向かう。
(第46話に続く)
医学博士号を取得すべく大学院で研究を進める彼は、フランスのトゥールーズで開催される国際宇宙連盟会議(IAC)を3週間後に控え、このところ順風満帆の実験にさらに追い風を送るべく、その日も夜通しとなる実験を始めていた。
時は2001年9月11日、日本時間22時頃、ニューヨークの世界貿易センタービルに航空機が激突したという報せは、研究室で実験中の彼をよそに日本のニュースでも直ちに速報された。
アメリカ東部時間の午前9時、こんなによく晴れた日に飛行機が誤って事故を起こすものかと人がいぶかる中、煙の立ち上る摩天楼を見上げて騒然となっている数多の群集のまさに目の前で、――
“Oh, my god!!”
ついさっき飛行機が突っ込んで煙を上げているツインタワーのもう一棟が爆発炎上すると、その場に居合わせた人はおろか、ライブ映像を見ている全世界までもが、一瞬にして戦慄と驚愕のどん底に叩きつけられた!
堂々と聳え立つ「アメリカの富の象徴」にジャンボジェットが突っ込むなどというありえない光景に人々は呆然としたが、まさかそのわずか20分後に、空からもう一機の旅客機が現れて残りのもう一棟に真正面からとどめの激突玉砕をしようなど、この世のいったい誰が――首謀者オサマ・ビンラディン一味を除いて――想像しただろう?!
さらに30分後にペンタゴンがボーイング757の突入を受けると、これはテロリストが引き起こしたアメリカに対する戦争であるということが、全世界の人々に知れ渡ることになった。
後にアメリカ同時多発テロと呼ばれるこの世紀の大事件は、世界の歴史という大河の流れさえ変えずにはおかないのだが、彼の運命という小さな支流にもまた不吉なうねりを送った。
「IACは大丈夫か?!」
企業は外国出張を禁止し、個人は海外旅行を自粛するなど、地球には不安と混乱の空気が充満しているのだが、彼にとって最大の関心事は、IACが予定通りに行われるかどうかなのだ。
テロが勃発する1週間前、IAC派遣プログラムに関する説明会が9月20日に浜松町で行われる旨の連絡が事務局からあった。
裕福でない彼にとって遠方から東京に出向くのは気軽ではないが、説明会にはNASDAの担当者も参加するとのことなので、出席する方が人脈を築く上で有利だと考えた彼は、ためらわずにそれに参加した。
会場では「使節団」の学生達が初めて顔を合わせ、IACへの期待を互いに語り合ったが、NASDAの担当者からはテロの影響で派遣プログラムが中止となる可能性に加え、最悪の場合そもそもIACの開催自体がキャンセルされる可能性があることを伝えられた。
IAC開催が近づくと、Join us at IAF2001事務局からは様々な連絡のメールが送られてくるが、その末尾には毎回「事前に中止となった場合はすみやかにご連絡します(注:日本時間9月○日○時現在では、そのような判断にはなっておりません)」と書かれている。
彼はそれを見てホッと安心する反面、中止という最悪の結果を恐れ続けなければならないことも再確認させられるのだった。
さらに事務局は学生達に、この非常事態の真っ最中に飛行機に乗ってIACの開催地であるフランスに行く覚悟があるかどうかを、両親の賛同をも含めて確認してきた。
彼は、自分の意志に如何なる変化もないことを即答した。
彼が恐れるのは、テロに巻き込まれて生命の危険に晒されることではない。
彼が最も恐れることは、むしろ9年間の努力の果てにようやく手にした宇宙の世界への扉が、無残に閉じられてしまうことなのだ。
9月30日、世界中がピリピリとした緊張感に包まれる中、最後の土壇場でキャンセルもあり得ると覚悟しつつ、彼はIAC派遣プログラムの集合場所である成田空港へと向かう。
(第46話に続く)
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