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DATE : 2014.08.15 (Fri) 01:20
司馬遼太郎『坂の上の雲』を読んだ。
 これは、好古(よしふる)、真之(さねゆき)の秋山兄弟を中心に、日本がその滅亡の危機に瀕した日露戦争という時代をひたむきに駆け抜けた話である。
 明治時代の日本人は、世界屈指の強国であるロシアの脅威から、当時の弱小国である日本を、文字通り命を擲って救った。日本人でなくとも、恐怖と空腹と痛みと極寒に耐え、ただひたすらに家族と同胞と子孫のために自分を捨てて戦った人間たちの偉業に、心動かされない者はあるまい。歴史の教科書からは到底伝わってこない感動が、『坂の上の雲』にはある。私は、好古や真之やその他綺羅星の如き英傑の数々が懸命に闘って成した偉業に、憧憬せずにはいられない。

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 かの時代には、自由がなかった。金がなかったから士官学校に入って軍人になった、というのは好古や真之だけではない。そしてすべての国民が、救国というただ一つの目的のために生きた。その意味で、すべての人が価値観を共有したといっていい。坂の上にはただ一つの雲しかなく、みなそれを目指して進んだ。
 この時代には、自由がある。どころか、溢れている。学校も仕事も服装も、部活も遊びも恋愛も、車も家電も携帯も、すべての選択が自由である。そして価値観は多様化した。語学も楽器もスポーツもいいが、マンガもゲームもコスプレもいい。あたかも雲海のただ中で道を見失っているかのようでもある。
 かつて先人たちが目指した、自由で多様で豊かな時代に、私たちは生きている。しかし、不自由で一様で貧しかった明治時代に憧れてしまうのはなぜだろう? 思うにそれは、かの時代では人がひとつの偉大な目的に何の疑いもなく突き進んでゆくことができ、かつその成果が皆から評価されたからだろう。
 この時代を幸せに生きるには、どうすればいいか? 二つの生き方がある。この豊かな時代では、何も血相を変えて働かなくても、そこそこ働いていればそこそこ楽しく生きていける。面倒なことは考えず、自分の好きな楽しいことをして一生を過ごしても、誰にも非難されない。
 もう一つの生き方は、自分が定めた一つの価値を、ストイックに追求していくことだ。あらゆる価値が認められているいまは、自分で価値を定めるしかない。それをひたむきに進めた先に、偉業が成っていることだろう。
というと大そうなことのようだが、何かを求めるということでいえば、求め方が違うだけで、楽を求めるのと大した違いはない。この自由の時代では、自分の生きたいように生きればいい。

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