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DATE : 2013.06.15 (Sat) 09:59
レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』を読んだ。
この本を一言でいえば、人類学者レヴィ=ストロースがブラジル先住民の社会生活を実地調査したときの回想記、となるだろう。
しかし、それだけにとどまらない人間社会に対する深い洞察が、単にエキゾチックな風習を面白おかしく吹聴する下卑た本と、60年以上脈々と人類に価値を与え続けているこの本とを、天と地以上に分けている。

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)
レヴィ=ストロース
中央公論新社
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即効的な効果を期待する安直なハウツー本と異なり、この本が読者に与える影響を簡単に述べるのは難しいのだが、高尚で価値のある本が常にそうであるように、読者の世界観を変える力がこの本には宿っている。
人間とは何か――誰しも抱くこの根源的な疑問に対する答えが、著者の様々なエピソードや考察を通して暗喩的に語られる。
例えば私が人間社会についてなるほどと思わされたのは、次の一節である:
「首長の政治力は、共同体の必要から生まれたものではないように思われる。むしろ集団の方が、集団に先立って存在している首長になるかもしれない男から、集団の形や大きさや、さらには形成の過程など、一定の性格を授けられるのである。」
換言すれば、人間社会――そんな大そうなものでなくて学校の部活動など小さなグループでもそうだが――がどのような姿になるかは、構成員の要求によるというよりは、リーダーの能力による、ということだ。

また、これは本編の後の資料を読んで感じることだが、偉大な知識人がいかに社会に本質的な影響を与えるか、ということにも驚嘆させられる。
例えば、レヴィ=ストロースの仕事に、同僚のヤーコブソンの講義を書籍化した『親族の基本構造』がある。
出版されるほど価値のある講義は、そうそう受けられるものではない。
最近では、哲学のマイケル・サンデル教授の講義がこれにあたるだろうか。
「講義は雑用だから」とうそぶく大学教員もいるなかで、偉大な人は仕事のひとつひとつに価値を凝縮させているように思われる。

見回せば、ポスト目当て、業績目当ての、空疎で投げやりで、有害ですらある仕事がこの世になんと充満していることか。
あまりにも多くの仕事に「楽して得したい」という要求、大した価値のないものをさぞ立派なもののように見せようとする欺瞞が、あからさまに透けて見える。
私も含めあらゆる人に、この要求が潜在的に深く根を張っている。

しかし、よい仕事には短絡的な利益を超えた、価値を生み出すことに対する集中と使命感が感じられる。
低俗な仕事が価値よりも金やポストをまず要求するのに対し、よい仕事はその逆なのだ。
最終的に認められてこの世に残るのは、そのような仕事に違いない。

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