category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.03.30 (Wed) 07:50
DATE : 2011.03.30 (Wed) 07:50
(第46話より続く)
国際宇宙連盟会議はつまるところ学会の一種であるから、発表者でない一般の参加者がとる行動は、基本的には、1題20分程度の発表者の話や議論を聞きに行ったり、展示ブースを見に行ったり、あるいはパーティーなどに参加する、のいずれかということになる。
発表や展示は合計すると100以上にも上り、全部聞いたり見たりすることはそもそも時間的に不可能だから、各人は分厚いプログラムとにらめっこしながら自分の関心のあるものを探し出して見に行くことになる。
彼は膨大な発表演題の中から宇宙医学関連のセッションをピックアップすると、その発表を聞くべく会場から会場へと転々とする。
逆に、自分から積極的に動かなければ何も得ることはできず、お国の税金を無駄にしてただフランス旅行に行ってきただけということになりかねない。
社交的なスキルがある者は、各国の宇宙機関の重要人物やおもしろい人物と、次々と人脈を築いていく。
その手のことに不器用な彼ではあるが、いくつかの成果はあった。
数百人を収容するメインホールで行われた有人宇宙活動関連のセッションが終わったときのこと、あぁ興味深い話だったと思いつつ彼が席を立とうとすると、隣に座っていた老年の紳士が彼に声を掛けた。
いったい誰かと彼は思ったが、聞いてみるとその人は、何と1970年のアポロ13号の奇跡の生還(トム・ハンクス主演で映画化もされている)の際、地上のミッションコントロールセンターからアポロの宇宙飛行士たちに指示を送っていた、ロッキード社の人物その人だという。
また彼は、別の展示会場で日本人宇宙飛行士の向井千秋さんに会い、直に会話を交わしたりもした。
彼以外の日本からの学生参加者もまた、宇宙工学や人工衛星など、自分の専門と関連する思い思いのセッションに参加した。
日中は別行動の彼らも、ディナーの時間には全員集合してその日の成果を話し合うのだが、最年少は19歳という若者達のこと、夜は毎晩のようにホテルの一室に集まって、男も女も、宇宙のことからプライベートまで気の向くまま、ほとんど朝まで熱っぽく語り合うのだ。
ロッキード社の元社員や宇宙飛行士とお近付きになるのはもちろん一つの成果だが、これからの社会を導いていく日本の若い学生達と親交を深めることの中に、彼の運命を導く種子が潜んでいることを、彼はまだ知るまい。
NASDAが学生達をIACに派遣するのは、将来社会を担う若者達に「井戸の外」の世界を見せることで、社会を豊かにするのが狙いだろう。
それはアメリカ同時多発テロという歴史に残る危機的状況の中、多少のリスクを冒しつつ行われたのである。
このIACに関る顛末もまた、彼の人生における一つの泡沫なのだが、この大きな泡沫は、消えてなおそこからいくつかの新たな泡沫を派生させることになる。
此くしてIAC派遣を終えて帰国した彼には、宇宙に関わるもうひとつの興味深いイベントが待っている。
(第48話に続く)
国際宇宙連盟会議はつまるところ学会の一種であるから、発表者でない一般の参加者がとる行動は、基本的には、1題20分程度の発表者の話や議論を聞きに行ったり、展示ブースを見に行ったり、あるいはパーティーなどに参加する、のいずれかということになる。
発表や展示は合計すると100以上にも上り、全部聞いたり見たりすることはそもそも時間的に不可能だから、各人は分厚いプログラムとにらめっこしながら自分の関心のあるものを探し出して見に行くことになる。
彼は膨大な発表演題の中から宇宙医学関連のセッションをピックアップすると、その発表を聞くべく会場から会場へと転々とする。
逆に、自分から積極的に動かなければ何も得ることはできず、お国の税金を無駄にしてただフランス旅行に行ってきただけということになりかねない。
社交的なスキルがある者は、各国の宇宙機関の重要人物やおもしろい人物と、次々と人脈を築いていく。
その手のことに不器用な彼ではあるが、いくつかの成果はあった。
数百人を収容するメインホールで行われた有人宇宙活動関連のセッションが終わったときのこと、あぁ興味深い話だったと思いつつ彼が席を立とうとすると、隣に座っていた老年の紳士が彼に声を掛けた。
いったい誰かと彼は思ったが、聞いてみるとその人は、何と1970年のアポロ13号の奇跡の生還(トム・ハンクス主演で映画化もされている)の際、地上のミッションコントロールセンターからアポロの宇宙飛行士たちに指示を送っていた、ロッキード社の人物その人だという。
また彼は、別の展示会場で日本人宇宙飛行士の向井千秋さんに会い、直に会話を交わしたりもした。
彼以外の日本からの学生参加者もまた、宇宙工学や人工衛星など、自分の専門と関連する思い思いのセッションに参加した。
日中は別行動の彼らも、ディナーの時間には全員集合してその日の成果を話し合うのだが、最年少は19歳という若者達のこと、夜は毎晩のようにホテルの一室に集まって、男も女も、宇宙のことからプライベートまで気の向くまま、ほとんど朝まで熱っぽく語り合うのだ。
ロッキード社の元社員や宇宙飛行士とお近付きになるのはもちろん一つの成果だが、これからの社会を導いていく日本の若い学生達と親交を深めることの中に、彼の運命を導く種子が潜んでいることを、彼はまだ知るまい。
NASDAが学生達をIACに派遣するのは、将来社会を担う若者達に「井戸の外」の世界を見せることで、社会を豊かにするのが狙いだろう。
それはアメリカ同時多発テロという歴史に残る危機的状況の中、多少のリスクを冒しつつ行われたのである。
このIACに関る顛末もまた、彼の人生における一つの泡沫なのだが、この大きな泡沫は、消えてなおそこからいくつかの新たな泡沫を派生させることになる。
此くしてIAC派遣を終えて帰国した彼には、宇宙に関わるもうひとつの興味深いイベントが待っている。
(第48話に続く)
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