category: 宇宙飛行士試験
DATE : 2011.01.20 (Thu) 02:38
DATE : 2011.01.20 (Thu) 02:38
(第2話より続く)
宇宙飛行士になるために英語の勉強が必要であることを痛感した彼ではあるが、はたして何から手をつけたものか?
ひとまず目標が必要だと考えた彼は、検定を道標にすることを思いつく。
彼が選んだのは、実用英語技能検定、すなわち英検である。
英語の習得度を測る指標には他にもTOEICやTOEFLなどがあるが、これらの試験はスコアに有効期限がある。
英検にはそれがなく、生涯資格であることが彼の気に入った。
また当時英検は文部省認定であり、その他の検定試験と比べて――少なくとも日本国内では――権威ある資格だったように思われる。
それに、結果が連続的な点数で出るよりも、級という関門を突破していく方がドラマチックではないか。
海外初体験では無謀な計画を立てた彼だったが、英検で受験する級に関しては彼の選定は妥当だった。
彼が選んだのは2級である。
数か月勉強すれば、十分に合格が狙えると踏んだからだ。
その目算は当たった。
本屋で買ってきた問題集を数冊こなしたことで、彼の英語力はいくらか上がったに違いない。
1994年12月、彼は英検2級の合格証書を手にした。
この時点では、彼にはまだ英検の頂きは見えなかった。
山のふもとで周りを木に囲まれているときには、自分がどの位置にいて山頂がどこにあるか、分からないものだ。
それでも次にどこに行けばいいかは分かる。
目標は、準1級である。
英検準1級の問題集を何冊か買い込んで、それを中心に彼は勉強を進める。
また時期は定かではないが、彼は語学の習得には環境が重要だと考えて、とにかく可能な限り英語を生活に取り込みはじめた。
それに用いたのは、輸入物の小説のペーパーバックや海外ドラマなどである。
通学の電車やバスの中で英語の小説を読んでいるのは、はた目には格好よく映るかもしれないが、その実彼はあまり内容を理解していなかった。
単語は難しいし、文学的な表現はなおさら難しいので、カタツムリのようなスピードでしか読めないにもかかわらず、意味はよくわからないという始末。
英語にできるだけ接するという方向性は間違っていないが、効率という点で見るとあまりいい勉強法とは言えないかもしれない。
ただ注目に値するのは、彼がそれを1冊や2冊でやめてしまうことなく続けたことである。
Amazonはおろかインターネットすら大衆に普及していなかったその時代、彼は本屋で洋書を注文して買った。
彼が読んだものには、『Jurassic Park』(ジュラシック・パーク)や『Flowers for Algernon』(アルジャーノンに花束を)などがある。
リスニングの勉強には、海外ドラマを取り入れた。
宇宙飛行士を目指す彼は、当然SF好きである。
彼は、深夜枠で毎週放送される『Star Trek: The Next Generation』(新スタートレック)を、毎週録画して英語で観た。
無料で見ることのできるテレビの2カ国語放送は、語学習得の強力な味方だ。
裕福でない彼にとっては特にそうである。
英語に接する機会が事実上皆無に等しい日本では、それは非常に貴重な環境だと言っていい。
しかし、こちらもペーパーバックに負けず劣らず意味不明である。
初めの頃など、1時間のドラマ中に聞き取ることができたのは「Yes」と「No」くらいだ。
これは冗談抜きの話である。
アナログ放送の時代には英語の字幕など出せないから、リスニングは耳に頼るしかない。
ただ、TVドラマがリスニングの勉強に有利な点は、言っている言葉が追えなくても絵を見ていれば概ね意味が分かり、「こう言っていたのかな?」と推測できることだ。
その点、人物の会話が中心で筋が複雑なヒューマンドラマよりは、アクションシーンの多いSFの方が向いている。
語学の習得では継続することが絶対に必要だが、自分の好きなSFドラマを観ることなら苦にならない。
それどころか、スタートレックという番組は絵的に面白い上にストーリーがよくできている。
どうしても聞き取れないときは、日本語で観ればいい。
あるときは、同じエピソードを1回目に英語で、2回目に日本語で、3回目に再び英語で観るというよなことをしている。
こんなふうにして、彼は必要以上に気張ることなく意味のよくわからないTVドラマを毎週観ることができた。
この方法は功を奏し、彼は着々と英語を聞き取る耳を養っていく。
よくわからなかったエピソードを数週間後に再び観ると、以前より明らかによく聞き取れるのである。
自分の能力が上がっていくのを実感するのが、楽しくないはずがない。
これにとどまらず、彼はニュースなど2カ国語放送をしている番組は、ほぼ必ず英語で見た。
意味が分からなくても、とにかくそうした。
ニュースの場合は画面に日本語でタイトルが出ているし、日常会話よりもハッキリと発音されるので、一般にドラマよりは聞き取りやすい。
ネイティブが使う生の英語に浴びるように接するこの方法は、見た目の効率は悪いが、気が遠くなるほどわずかながら英語の語感やリズムを養っていく。
このような勉強を続けつつ、1995年7月、彼は英検準1級の試験に挑んだ。
しばらくして、筆記の一次試験の合格通知が来た。
しかし問題は、面接の二次試験である。
(第4話に続く)
宇宙飛行士になるために英語の勉強が必要であることを痛感した彼ではあるが、はたして何から手をつけたものか?
ひとまず目標が必要だと考えた彼は、検定を道標にすることを思いつく。
彼が選んだのは、実用英語技能検定、すなわち英検である。
英語の習得度を測る指標には他にもTOEICやTOEFLなどがあるが、これらの試験はスコアに有効期限がある。
英検にはそれがなく、生涯資格であることが彼の気に入った。
また当時英検は文部省認定であり、その他の検定試験と比べて――少なくとも日本国内では――権威ある資格だったように思われる。
それに、結果が連続的な点数で出るよりも、級という関門を突破していく方がドラマチックではないか。
海外初体験では無謀な計画を立てた彼だったが、英検で受験する級に関しては彼の選定は妥当だった。
彼が選んだのは2級である。
数か月勉強すれば、十分に合格が狙えると踏んだからだ。
その目算は当たった。
本屋で買ってきた問題集を数冊こなしたことで、彼の英語力はいくらか上がったに違いない。
1994年12月、彼は英検2級の合格証書を手にした。
この時点では、彼にはまだ英検の頂きは見えなかった。
山のふもとで周りを木に囲まれているときには、自分がどの位置にいて山頂がどこにあるか、分からないものだ。
それでも次にどこに行けばいいかは分かる。
目標は、準1級である。
英検準1級の問題集を何冊か買い込んで、それを中心に彼は勉強を進める。
また時期は定かではないが、彼は語学の習得には環境が重要だと考えて、とにかく可能な限り英語を生活に取り込みはじめた。
それに用いたのは、輸入物の小説のペーパーバックや海外ドラマなどである。
通学の電車やバスの中で英語の小説を読んでいるのは、はた目には格好よく映るかもしれないが、その実彼はあまり内容を理解していなかった。
単語は難しいし、文学的な表現はなおさら難しいので、カタツムリのようなスピードでしか読めないにもかかわらず、意味はよくわからないという始末。
英語にできるだけ接するという方向性は間違っていないが、効率という点で見るとあまりいい勉強法とは言えないかもしれない。
ただ注目に値するのは、彼がそれを1冊や2冊でやめてしまうことなく続けたことである。
Amazonはおろかインターネットすら大衆に普及していなかったその時代、彼は本屋で洋書を注文して買った。
彼が読んだものには、『Jurassic Park』(ジュラシック・パーク)や『Flowers for Algernon』(アルジャーノンに花束を)などがある。
リスニングの勉強には、海外ドラマを取り入れた。
宇宙飛行士を目指す彼は、当然SF好きである。
彼は、深夜枠で毎週放送される『Star Trek: The Next Generation』(新スタートレック)を、毎週録画して英語で観た。
無料で見ることのできるテレビの2カ国語放送は、語学習得の強力な味方だ。
裕福でない彼にとっては特にそうである。
英語に接する機会が事実上皆無に等しい日本では、それは非常に貴重な環境だと言っていい。
しかし、こちらもペーパーバックに負けず劣らず意味不明である。
初めの頃など、1時間のドラマ中に聞き取ることができたのは「Yes」と「No」くらいだ。
これは冗談抜きの話である。
アナログ放送の時代には英語の字幕など出せないから、リスニングは耳に頼るしかない。
ただ、TVドラマがリスニングの勉強に有利な点は、言っている言葉が追えなくても絵を見ていれば概ね意味が分かり、「こう言っていたのかな?」と推測できることだ。
その点、人物の会話が中心で筋が複雑なヒューマンドラマよりは、アクションシーンの多いSFの方が向いている。
語学の習得では継続することが絶対に必要だが、自分の好きなSFドラマを観ることなら苦にならない。
それどころか、スタートレックという番組は絵的に面白い上にストーリーがよくできている。
どうしても聞き取れないときは、日本語で観ればいい。
あるときは、同じエピソードを1回目に英語で、2回目に日本語で、3回目に再び英語で観るというよなことをしている。
こんなふうにして、彼は必要以上に気張ることなく意味のよくわからないTVドラマを毎週観ることができた。
この方法は功を奏し、彼は着々と英語を聞き取る耳を養っていく。
よくわからなかったエピソードを数週間後に再び観ると、以前より明らかによく聞き取れるのである。
自分の能力が上がっていくのを実感するのが、楽しくないはずがない。
これにとどまらず、彼はニュースなど2カ国語放送をしている番組は、ほぼ必ず英語で見た。
意味が分からなくても、とにかくそうした。
ニュースの場合は画面に日本語でタイトルが出ているし、日常会話よりもハッキリと発音されるので、一般にドラマよりは聞き取りやすい。
ネイティブが使う生の英語に浴びるように接するこの方法は、見た目の効率は悪いが、気が遠くなるほどわずかながら英語の語感やリズムを養っていく。
このような勉強を続けつつ、1995年7月、彼は英検準1級の試験に挑んだ。
しばらくして、筆記の一次試験の合格通知が来た。
しかし問題は、面接の二次試験である。
(第4話に続く)
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