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DATE : 2011.01.21 (Fri) 03:05
第3話より続く)

彼が英検準1級を受験していた1995年。

一本の電話が彼にかかってきたのは、それに先立つこと1、2年前、彼が英語を学ぶ決意を固めた頃だったと思われる。
相手は彼の中学時代の見目麗しい同級生である。
彼女とはもう5年以上連絡が途絶えていた。

女子から電話をもらうことなど皆無に等しい肉食系非モテ男子の彼が狂喜したことは、言うまでもない。
彼にまつわる女性は三人あるが、そのうちの一人が彼女である。

***

彼女は外国からの帰国子女。
彼の中学校では、彼女の英語の発音に並ぶ者はいない。
文武両道に秀でていた彼女に、いつしか彼は好意と崇敬の念を抱くようになる。

彼女は誰にでも分け隔てなく接し、敵を作らず、誰からも愛されるタイプの人だった。
彼女が生徒会の副会長に立候補したとき、得票数を総なめにしたことが、それを裏付けている。
一方、生徒会長に立候補した彼はどうだったか。
5人の候補者が乱立する激戦ではあったが、人望もカリスマもない彼は、惨憺たる敗北を喫したのであった。
彼女は彼にとってあらゆる意味で眩しい存在であり、彼が自分自身を彼女よりも小さなものと認識していたのは、もっともなことだ。

いつだったか、彼女が将来獣医になりたいと言うのを彼は聞いた。
そのとき彼が何になりたいと思っていたかは、当の本人にすら定かではない。
ただそれが宇宙飛行士でなかったことは確かだろう。
なぜなら、彼はそんな大それた野望を抱く程の器ではなかったからである。

中学を卒業して、彼と彼女は別々の高校に進学した。
彼が自分の気持ちを伝える手紙を彼女に渡したのは、卒業式の日だったか。
数日後、彼の許には丁重なお断りの便りが届いた。

***

あれから5、6年後。
かつての憧れの人からの電話に、一体何の話かと受話器に耳を押しつけていた彼は、全身からアドレナリンを噴出させ、心拍増加、血圧上昇、瞳孔散大の前傾姿勢だったに違いない。
しかして彼女の話は、最近彼の大学の近くに妹と二人で下宿しているから、一度会おうということだった。
彼女の声が時々上ずっていることが、受話器越しにも分かる。

普通の人間であれば、この状況に何らかの意味を見出し、それを最大限に活用しようとするはずである。
ところが彼ときたら、この手のことにどうしようもないほどの鈍感男なのだ。
私が分析する限り、これが彼を非モテたらしめる主要な要因である。
このイライラするほど空気が読めない彼の性質は、今後も嫌というほど彼の好機を潰し続けることになる。

彼は彼女に会いには行ったものの、当たり障りのない世間話を延々と続けた挙げ句、次のアポを取り付けることなく「それじゃあ」などといって帰ってしまった。
世の中にこれ以上の愚行があるだろうか!?
私なら、絶対にそんなことはしない。
このとき彼はその決意を既にしていたにもかかわらず、宇宙飛行士を目指していることを彼女には伝えていない。まだ準備不足なことを十分に認識していたからである。

ところで彼が獣医学科の学生であるのは、偶然ではない。
賢明なる読者は大方お察しのことだろう。
彼女は、彼の運命を方向付けた女なのだ。
初対面の人にはなぜ獣医なのかをたいてい聞かれるが、その度に彼はしどろもどろになったものだ。
彼がその問いに対して社会人的な模範解答をスラスラ返せるようになるのは、まだ先のことである。

ちなみに5年前に獣医になりたいと言った彼女本人はといえば、某会社の社長秘書になったということだ。
何という運命の皮肉。

5年ぶりの再会の日から2、3週間の後、彼は偶然を装って彼女の下宿の前で「ばったり」彼女に出くわすのだが、彼女には何か用があったらしく、ろくに話もできないままバイバイとなってしまった。
無念。
当時まだストーカー規制法がなかったのは、彼にとって幸いだったか否か。。

それきり彼は二度と彼女に会うことはなかった。
彼女は彼の運命を変えた女ではあったが、運命の女ではなかった。
あれは、彼の前に忽然として現れて消えた、一時の甘美な奇跡。
だがそれでいいのだ。
彼女は、彼の記憶の中に生き続ける。永遠に美しいまま。


これで彼も英語の学習に集中できるというものだ。
果たして、心血を注いで彼が臨んだ英検準1級の二次試験の結果や如何に?

第5話に続く)

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