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DATE : 2006.12.29 (Fri) 22:46
先日、A4大の国際郵便が自宅のポストに入っていた。
アイアンマン西オーストラリアの公式記録と、完走証だ。
(まだ回想録が書きかけなのだが…)



レース前、私は
「3.8km泳いで、180.1km自転車で行って、さらに42.2kmのフルマラソンを終えた瞬間というのは、きっと激しい高揚感に包まれるんだろうなぁ。」
と思っていた。

しかし、大勢のギャラリーから文字通り喝采を浴びて、英雄のようにゴールゲートをくぐった瞬間の私の気持ちは、
「あぁ、終わったんだ…」
という、あっけないとも思える、ごく穏やかなものだった。

しかしこれは、入念に計画し、努力を惜しみなく注ぎ込んだ結果得た成功。
激しく一瞬で燃え尽きるのとは違った、ゆっくりとじわじわ燃え続けるような達成感がある。

フィニッシャーメダルや完走証は、つまるところ金属の塊や紙切れでしかない。
しかし、「長年に渡って打ち込み、気力と体力を鍛え、アイアンマンレースを完走した」という事実は、どれだけ莫大な金を払っても買うことはできない。

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DATE : 2006.12.19 (Tue) 23:42
(回想録-3の続き)

折り返し地点付近では、何回か波に遭遇した。
とはいっても、楽にやり過ごせる程度のものだ。

折り返しを過ぎると、今度は朝日に向かって泳ぐ形になる。
時折りヘッドアップして、2kmほど先にあるはずのスイムゴールの方に視線をやるのだが、まだ陸は見えない。

スタート直後は、自分の周りに芋洗いのように密集していたトライアスリートたちが、いつの間にかいない。
ずいぶん先に行ってしまったのだろう。
私は一人静かに黙々とストロークを続ける。

普通海では目印に乏しいので、プールで泳いでいるときと比べて進んでいる感じがあまりない。
しかしこの海の水はとてもきれいなので、底にある海草や砂浜が、ゴーグルを通してはっきりと見える。
自分が進んでいる感覚を感じられるのは、大きな支えだ。

しばらくすると、カヌーに乗っているオフィシャルが、「あっちだ」とゴールの方向を知らせてくれた。
「あれか」
ようやく海岸が見えてきた。

1ストローク、もう1ストローク。
なかなか岸は近づいてこないが、底がはっきり見えるので、自分が着実に進んでいることはわかる。
スタートのときより、日が昇っている。

1ストローク、もう1ストローク。
いまや砂浜が手に届きそうだが、なかなか届かない。
1ストローク、もう1ストローク。
まだか、まだかと思ってかき続けると、ようやく指先に砂が触れた。

ややフラフラの状態で立ち上がると、スイムゴールのゲートが見えた。
水をけりながら走ると、ギャラリーが「well done!」「good job!」と励ましの声をかけてくれる。
とてもありがたい感じがする。



「ピッ」
アンクルバンドがスイムフィニッシュ地点を通過した音だ。
時計を見ると、スタートから1時間45分が経過していた。

(回想録-5に続く)

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DATE : 2006.12.15 (Fri) 01:07
(回想録-2の続き)

スタートの瞬間、スイムキャップの下に装着したGARMIN-GPSと、腕の時計のストップウォッチをスタートさせた。

黄色のスイムキャップの私は、焦るわけでもなく最後尾に陣取っていた。
もっと速いトライアスリートは、茶色や青や白のキャップをかぶって、私の前を泳いでいる。
レースを申し込むときにスイムの予想タイムを1時間30分と書いたので、後ろの方に振り分けられたのだろう。

砂浜を何歩か歩いて水面がひざまで来ると、私は泳ぎに入った。
写真で見たとおり、水は非常にきれいだ。
砂浜や海草がくっきりと見える。
ゴミなどまったく見つけられない。



波のない穏やかな海。
プールの練習で2~3回3泳いでいたので、スイム3.8kmは制限時間の2時間15分以内に泳ぎ切る自信があった。
「ここで急いで数分タイムを縮めても、レースの大勢には影響するまい」
そう思いながら、無理せずいつものペースで泳ぐ。

2ストローク毎に1回、左で息継ぎを入れる。
ジェッティー(桟橋)を右回りにターンするコースでは、左の息継ぎは不利だ。
まっすぐ泳いでいるつもりでも、気が付くとずいぶんジェッティーから離れて泳いでいる。
極端に右に向かって泳ぐくらいで、ちょうど真っ直ぐ進む感じだ。

6ストロークごとに1回、ヘッドアップして前を見る。
しばらく泳いでいると、ようやく黄色いブイが見えてきた。
「あそこまで行けば折り返しだ」



そう思いながら延々とかきつづけるのだが、ブイはなかなか近づいてこない。
「もうどれくらい泳いだのだろう?」
そう思いつつさらに泳ぎ続けると、ようやく折り返し地点にたどり着いた。
いったん止まってストップウォッチを見ると、45分を指している。
このペースなら大丈夫だ。

(回想録-4に続く)

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DATE : 2006.12.13 (Wed) 01:34
(回想録-1の続き)

5分ほど歩いてホテルに戻り、いよいよ最後の準備をする。
よく擦れる脇と股にワセリンを塗り、ウエットスーツを着用。
スイムキャップとゴーグルも忘れずに持っていく。

この頃には、先ほどまで真っ暗だった東の空が青く見える。
レースの朝だ。
「風がないのはありがたい。」
そう思いながら、ウエットの鎧で武装した私は、サンダルでスタート会場に向かった。



スイム会場のジェッティー(桟橋)には、約800人のトライアスリートが集っている。
波はほとんどなく、オーストラリア到着以来心配していた海のコンディションは抜群だ。
私たちはなんとツイてるのだろう!

1年前に日本で「蒲郡オレンジトライアスロン」に出たときは、太鼓の演奏がスタート前の会場を盛り上げた。
ここでは、海外らしくノリのいい音楽が大音量で流れている。
そのおかげか、今からスイム3.8km、バイク180km、ラン42.2kmの一大レースが始まろうとしている瞬間にもかかわらず、ほとんど緊張を感じない。
それとも、「やるべきことはやってきた」という自信がそうさせているのだろうか。

全長約2km、南半球最大の木造建築物であるジェッティーには、たくさんの人々が集まっている。
早朝から詰め掛けた人々は、鉄人レースのスタートをまだかまだかと待っているようだ。
地平線から昇る太陽が、空と海を黄金に染める。

アイアンマンになることを決意したのが5年前。
この日のために、どれだけの時間を費やし、どれだけの距離を行き、どれだけの汗を流しただろう。
雨の日も風の日も、雷の日も。
そして今私は、海を眺めつつ砂浜で静かに「その時」を待っている。

午前6時15分、その後17時間続く鉄人レースの幕が切って落とされた。

(回想録-3に続く)

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DATE : 2006.12.10 (Sun) 11:12
先日の出来事について語ろうとすると、本一冊くらい書けてしまいそうだ。
それは他の機会に譲るとして、ここではそのストーリーをもう少し簡単にまとめることにしよう。



2006年12月3日午前3時。
オーストラリア・バッセルトン。
こんな早朝に起きるのは、6時15分のレーススタートに間に合わせるためだ。
外は真っ暗で、星がよく見える。
オリオン座はいつもすぐに見つけられが、星図にあまり詳しくないのでサザンクロス(南十字星)は分からない。

まずは食事を取る。
レース中にハンガーノック(エネルギー切れ)を起こすのは致命的。
だから、食べることもレースの一部なのだ。
シリアル2箱と牛乳と、バナナとマフィンとアップルジュース。
昨日の夜はナシゴレン(タイのスパイシーなチャーハン)を食べた。
レースで効いてくるのは、蓄積された炭水化物だからだ。

暗闇の中、ホテルからレース会場まで5分ほど歩く。
ボディーナンバリングをしてもらったり、バイクのタイヤに空気を入れるためだ。
係員の対応が始まるまで待っていると、見る見るうちに数十人ほどの列ができた。



12月といえば南半球では夏。
昼間の太陽は強烈で、直射日光を受けると暑い。
しかし、日陰に入って風が吹いていたりすると寒いほどだ。
湿度が低いからだろう。

夜はなおさら寒い。
幸いにして今日は風がないようだ。
真っ暗で若干寒い中を、今から始まろうとするレースに思いを馳せるトライアスリートたちが待っている。

20分ほど待つと、柵が開いて私たちは通された。
まずボディーナンバリングをされた。
といっても、今回のレースではレースナンバーではなく、エイジグループを表すアルファベットだけを右のふくらはぎに書かれたのだが。
マジックで体にレースナンバーを書くのは、トライアスロンで象徴的な行事。
これがないのは、さびしいのを通り越して、少し不安なくらいだ。

続いてバイクに空気を入れに行く。
空気が冷たいので、サドルに水滴が付いている。
なんとこの時点でパンクに気付く人もいる。
「まぁ、レース中にパンクするよりはマシか。」
そんなことを思いながら、シューシューと自分のバイクに空気を入れる。
このために、わざわざ日本からフロアポンプを持ってきたのだ。



(回想録-2に続く)

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Ken Takahashi

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