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DATE : 2024.04.24 (Wed) 06:03
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DATE : 2011.03.24 (Thu) 00:15
第42話より続く)

相手に指定された日時に必ず電話を取らなければならないというのは、それ自体がプレッシャーだ。
しかもそれが英語による電話インタビューで、その出来によって自分の将来が左右されるほど重要なものであれば、なおさらである。
この日のために周到に準備した想定問答の原稿を前にしつつも、彼は足が宙に浮いているような気がしてならない。

彼の過去を振り返ってみれば、ちょうど同じように英作文の原稿を用意して、緊張しきって電話の前に座したことがなかったか。
あれは8年前、彼は初めての海外旅行でバックパックをなくしてしまい、サンフランシスコのホテルからアメリカン航空のデスクに、拙い英語で何度も電話をかけた。
それを機に己が英語力の至らなさを痛いほど実感し、獣医師となってからも激務の合間を縫いつつただひたすら英語を学んできたいま、ようやく「宇宙」と名の付くものにその鍛えた剣をふるう機会が与えられている――。

「プルルルルル・・・」
ベルが3回鳴るのを待ったあと受話器を上げる彼の手は、いつからか緊張で汗ばんでいる。
相手は紛れもなく国際宇宙連盟会議への「使節団」を選抜する、Join us at IAF2001事務局の担当者だ。

いよいよインタビューが始まると、彼は緊張で受話器を耳に押し付けるが、話し始めた瞬間にそれは意外にも少し和らいだ。
というのは、彼はインタビューアーとしてネイティブスピーカーを想定していたのだが、それが日本人であることを察知したのだ。
相手の質問は事前に作成した想定質問といくつかかぶっていたから、準備した原稿に少しアレンジを加えることで対処できたのだが、話し方はややしどろもどろになってしまった。

彼は自分の出来ばえに100%の自信は持てず、結果が出る日までやきもきして待つことになった。
当初は二次審査の結果は8月初旬に出るということであったが、電話インタビューの後にそれが8月末になると聞いたので、その期間待つことを彼は覚悟していた。
しかしIAF事務局からの連絡は思いのほか早く、1週間ほど後にやって来た。

結果の連絡は、またしても電話である。
こちらからではなく、先方から電話がかかってくる場合は主導権を完全に相手に握られるのだが、事務局は敢えてそれを狙っているのだろうか?
いずれにせよ、よい結果であれば主導権を握ろうが握られようがどうでもよいのだが・・・

息を飲んだ彼が受話器越しにJoin us at IAF2001事務局の担当者から聞いた言葉は――「おめでとうございます」!!

第44話に続く)

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DATE : 2011.03.22 (Tue) 22:19
第41話より続く)

Join us at IAF2001事務局から一次試験合格の通知を受け取った彼は、今や彼の婚約者となっていた「第3の女」にその喜びを伝えた。
気安く話せる友人の少ない彼も、彼女にだけはそれを話すことができる。
それは恐らく、彼の可能性を心底信じてくれる人が、彼女だけであるからだろう。

その数日後には、先日受験した英検1級の試験結果が送られてきた。
結果は、5回目の今回もまたしても不合格だったのだが、不思議なことに全く悔しい気が起こらない。
前回は”bite the dust”というくらい不合格を悔しんだのが嘘のようだ。

その理由の一つは、英検1級不合格の無念さよりも、IACの一次試験合格の喜びの方が遥かに勝ることだ。
もう一つの理由は、これまで4回続きで「不合格B」であった結果が、今回初めて「不合格A」に上がったことである。
前回まではあらゆる分野で合格者の平均点を下回っていたのだが、今回ようやく読解分野で合格者の平均点をわずかに上回ったことが、彼に自信を与えた。

前回の試験では合格点に13点足りなかったのだが、今回は合格点86点に対し得点83点で、あと3点は、この調子で続けていけばいずれ取れるだろう。


NASDAが主催するIACへの学生派遣事業。
一次審査が通れば、次は二次審査の電話インタビューである。
極端な話、一次審査の英文エッセイは、仮に外人に丸投げしてしまっても合格することはできただろう。

しかし、自分にかかってきた電話に対し英語で問答をしなければならない二次審査は、そうはいかない。
ここでネイティブスピーカーに代わりを頼む卑怯者もあるまい。
ここでは、応募者本人の英語のスピーキング力と、宇宙に対する情熱とが、誤魔化しなしで問われるのだ。

早速彼が始めたことは、想定質問とそれに対する答えを準備することである。
これは言ってみれば、英検1級の2次試験対策で、相手の質問を宇宙開発関連と想定するようなものだ。
そしてこれもまた、彼にとってこの上なく楽しくて、かつこの上なく重要な英作文なのだ。

一次審査の英文エッセイをチェックしてくれた英語講師は、今回も気前よく彼の想定問答集を見てアドバイスをくれた。
出来上がった原稿をもとに、彼は何回もそれを読んで電話インタビューのシミュレーションをする。
自分が話しているのを録音して聴くのは恥ずかしいものだが、インタビューの出来を極限まで高めるためには、ここで恥ずかしいなどと言っている場合ではない。

こんな風に、自分がいかに本気で宇宙を向き合っているかを伝える機会、それも、まさに宇宙開発を仕事としている相手に伝える機会など、これまで彼は一度たりとも遭遇したことなどないのだ。
千載一遇の好機とは、このことだ。
ここで全力を尽くさずして、いったいいつ全力を尽くそうというのだ?

此くして彼は、2001年7月30日の英語による電話インタビューを迎える。

第43話に続く)

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DATE : 2011.03.16 (Wed) 07:34
第40話より続く)

彼が英検の試験を受ける時はいつも、2ヶ月ほど前から試験当日まで「これでもか!」というくらいに自分を追い込む。
2000年に受験した前回の試験では、人目を盗んだり電車でもまれたりしながら『英検pass単熟語1級』を一通り終えたのがこれに当たる。
「試合」の日時が決まれば、挑戦者はそれに向けて練習を積むものだ。

彼は英検の資格を得るために英語を勉強しているのだが、また逆に、英語を勉強するために英検を受験しているのだ。
もし彼が検定試験を受けていなかったら、彼の英語習得は遅々として進まなかったに違いない。
英検の資格が英語力を必ずしも正確に反映しているわけではないが、その一方で何らかの明確な「目的地」を決めずに英語学習を進めるのは、地図を持たずに航行するようなものではなかろうか?

ここまでのところ、「試合」前には減量中のボクサーの如く自分を追い込んできた彼だが、5回目の今回は若干事情が違っている。
なぜなら、彼は国際宇宙連盟会議(IAC)への参加学生募集プログラムに応募しているからである。
博士号取得に向けた研究や、語学資格取得に向けた勉強など、するべきことに事欠かない彼だが、宇宙を目指す彼にとって、目下の最優先事項はIACなのだ。

2001年6月17日、彼は5回目の英検1級試験に挑む。
試験会場はたいてい高校か大学の一室で、そこに座っている2、30人の受験者には雑談を交わす者もなく、面持ちは神妙である。
おそらく彼らが積んできた厳しい修行が、「お遊びではない」という緊張感を生み出しているのだろう。

しかし1級の合格率は約4%であるから、割合からすれば、その栄冠を手にすることができるのは、この部屋の中のたった一人だけなのだ。


その試験でいつものように実力を出し切った彼は、結果を待つ身となった。
7月中旬とされているIAC参加者選抜の結果と今回の英検の結果とで、どちらが早く出るだろう?
IAC選抜の結果は恐ろしいことに「第1次審査通過者にのみ、第2次審査のご案内を致します。」となっているので、彼はやきもきしながら待ったに違いない。

早く来たのは、IACの方だった。
まさか電話で連絡が来るとは思っていなかった彼は、受話器越しに相手が「Join us at IAF2001事務局の○○です」と名乗ったので度肝を抜かれた。
しかし結果は合格で、翌日の7月18日に事務局から送られてきたメールには次のように記されていた。

***

こんにちは。Join us at IAF2001事務局の○○と申します。
さて、この度はJoin us at IAF Contest 2001にご応募頂き、ありがとうございました。 
平成13年7月某日に開催された第一次選考委員会により、貴殿には第二次選考審査に進んで頂くこととなりましたので、ご連絡申し上げます。
 つきましては、下記により第二次選考審査(英語による電話インタビュー)を行いますので、詳細を確認の上、受験頂きたく宜しくお願い申し上げます。


(第2次選考審査詳細)
1 受験指定日時:日本時間 平成13年7月30日(月) 
午前10:00~12:00の間を予定
*一人あたりの試験時間:約5分程度

2 受験方法:試験担当者が貴殿連絡先(エントリー時のTel番号)に直接電話いたしますので、上記受験指定日時に、必ず連絡先に待機下さいますようお願いします。

3.合格発表:8月上旬(3日(金)~6日(月)頃)
本人に直接通知するとともに、ホームページ上で発表いたします。
なお、不合格の場合は、本人にのみ通知致します。

第42話に続く)

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DATE : 2011.03.11 (Fri) 02:15
第39話より続く)

国際宇宙連盟会議(IAC)への「使節団」に選抜されるべく選考事務局に渾身の英文エッセイを送った彼は、ここで一息つくかに思われるが、7月中旬とされている結果発表まで彼はただ待っているだけではなかった。
実は、ベールに包まれていたIAC派遣事業の全貌が明らかになった1週間ほど後に、彼は教授からもう一つの衝撃的な情報を得ていたのだ。
NASDAの「宇宙環境利用研究システム・宇宙環境利用研究センター成果報告会」が、来る6月14日、日本の宇宙開発の中心地であるつくば宇宙センターで行われるというのである。

未だかつて訪れたことのない、NASDAの本拠地。
大学生のときも獣医師のときも、おぼろげながらに想像するのみだったその遠い存在が、いま期せずして急激に接近しようとしている。
彼は教授からの転送メールを受信するなり、直ちにそのイベントの参加計画を練り始めた。

交通を調べてみると、彼の実家から東京駅までが3時間、東京駅からつくば宇宙センターまでが1時間。乗り継ぎや会場への移動なども考えると、当日の朝に自宅を出ていたのでは10時のイベント開始に間に合わない。
東京で前泊という手もあるが、最愛のワインレッドメタリックのシルビアでさえ経済的困難から手放してしまっている彼には、そのような余裕はない。
コストカットのためにスーツを持って夜行バスで東京に向かう旅には、ある種の哀愁すら漂っているのだが、今や彼の新たな聖地となったその場所に赴くには、むしろ苦難の貧乏旅行の方がサマになるのかもしれない。

2001年6月14日の朝、空気も澄んで晴れ渡った青い空と、つくば宇宙センターの白く輝くビルとが、素晴らしいコントラストをなしている。
東京駅から1時間あまりのバス(まだつくばエクスプレスが走っていない当時は事実上唯一の交通手段)を降りて正門で受付を済ませた彼は、会場の研究開発棟に向かうのだが、53万平方メートルの広大な敷地内に様々なビルが点在する中のその場所は、初めはちょっと分かりにくい。
あちらかこちらかと頼りなさげに辺りを見回しながら歩くうち、何気なく目に入った歩道の脇の標識の8文字が、不意に彼の脳天を貫いた!

「宇宙飛行士養成棟」

その入り口に歩いていくと、ガラスのスライドドア越しにEVA(船外活動)用の真っ白い宇宙服の堂々たるディスプレーが見える。
彼が目指す宇宙飛行士たち――毛利さん、向井さん、土井さん、若田さん、野口さん、古川さん、星出さん、角野さん――は、日本にいる間はおそらくここを拠点に活動し、そのうちの何人かは、いま実際ここにいるのかもしれない!
勝手に入ったら怒られるだろうか――?

いつぞやの音楽棟を彷彿させる状況だが、流石にそこはセキュリティーが堅固で、ガラス越しに宇宙服と対峙してドアの真正面に立った彼は、残念ながらIDカードがなければその中に入れないことを発見した。
「いつかここに入るときが来るのだろうか・・・」
次にそこを訪れる時に思いを馳せつつ、彼は目的のイベント会場に移動した。

10時30分から17時まで行われたNASDAの成果発表会は、会場や発表内容や参加者のやり取りなど、彼にとって新鮮で興味深いものであった。
彼のもう一つの収穫は、NASDAのライフサイエンス分野にどのような人物がいるかを知り、かつその人物達をその目で間近に見たことである。
彼は、NASDAの組織・人員構成の偵察と、宇宙飛行士養成棟との予想外の出会いという成果を引っさげて、つくば宇宙センターを後にした。

このNASDAとのファーストコンタクトは彼にとって歴史的な出来事だが、その3日後には、今回で5回目となる因縁の英検1級の試験が彼を待っている。

第41話に続く)

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DATE : 2011.03.10 (Thu) 03:18
第38話より続く)

彼がNASDAのウェブサイトをインターネットエクスプローラのホームページにしたのはいつからだろうか。
ブラウザを立ち上げる度にそのサイトが開くようにしておけば、探している重要なニュースを見逃すまい。
そのようにして毎回NASDAのサイトのWhat’s new欄に目を凝らす彼は、注意深く獲物を捜し求める野獣に似ている。

長い長い空腹で苛立ちを募らせていた野獣の双眸に、獲物と思しきものが今ちらりとのぞく。
5ヶ月間見張り続けたこのサイトのWhat’s newに、つい先日まで見当たらなかった、小さなフォントで書かれた一文があるではないか。
「第52回国際宇宙連盟会議の参加学生の募集を開始しました。」

野獣の被毛が軽く逆立つ。
What’s newに新しく現れたそのリンクをクリックすると、謎に包まれていたIACへの学生派遣事業の全容が姿を現す。
獲物を眼中に捉えた野獣は、瞬きする間も惜しみつつ、これから始める狩りのための状況判断を始める。

会期:2001年10月1日~5日、開催地:フランス・トゥールーズ、宇宙開発に関心のある16人の学生を募集。
選抜は2次まで行われ、1次選抜の課題は宇宙開発に関する英文エッセイ1枚。
所属機関の指導者の推薦状を添え、6月22日に必着の事。


この募集要項を見た彼は、選抜に重要なポイントは3つあると踏んだ。
すなわち所属・専攻が相応しいこと、英語の能力があること、そして、何より宇宙への情熱があること。
宇宙医学実験センターを擁する環研であれば所属は問題なかろうから、勝負は、いかに熱意に満ちたエッセイを、堪能な英文で書くかにかかっている――。

これまでの8年間彼に許された「獲物」といえば、英検の試験やマラソンのレースくらいのものだ。
未だその獲得に至らず四苦八苦しているものの、それとて彼の主目的からすればオードブルの類に過ぎない。
いま彼は、初めて「宇宙」という名の付いた最上級の獲物を、その視界の圏内にはっきりと捉えたのである。

野獣がこの上ない歓喜に満ちたときに起こるのは、笑いの表情ではない。
それは脊髄にじわりと走る電気的興奮であり、体表に立つ鳥肌であり、全身にたぎるアドレナリンの血潮である。
この期に及んで躊躇するいかなる理由も見出せない彼は、最高の機会を与えられたことを天に感謝しつつ、長らく待ち続けたその獲物をめがけ、咆哮せんばかりの勢いでまッしぐらに走り出す。

彼にとって、これ以上におもしろくして、かつ重大な英作文など他にあろうか?
これを前にしては、教材としては素晴らしい『松本亨英作全集』の英作文も、自分の将来とは直接無関係な、無味乾燥な翻訳作業に過ぎない。
いま彼に求められているのは、8年間ありったけ溜め込んできた宇宙への思いを、8年間ありったけ鍛えてきた英語でもってぶッつけることであり、しかもそれに、他ならぬ彼の未来がかかっているのである。

しかし、これまでいかに英作文の練習を積んできたとはいえ、エッセイを完全無欠なものとするためにはネイティブによる添削が絶対に必要だと考えた彼は、万全を期して心当たりの人物にそれを頼んだ。
大学院生の彼は今年の4月からネイティブ講師による英会話の講義に出席していたので、その講師に事情を説明して添削を依頼したのである。
講師は快くそれを引き受け、彼の原稿を1日足らずで添削して返すと、彼に応援の言葉を送った。

エッセイができると後は所属機関の指導者の推薦状だが、こちらは彼の研究室の教授が快諾し、立派な文面をしたためて彼に渡した。
IAC派遣事業という獲物を前にして野獣さながらであった彼も、研究室の教授と英語の講師の助力なくしては無力だったことを思うと、彼らに感謝の意を表さずにはいられない。
審査員に熱意を示すにはギリギリよりも早目がよいと考えた彼は、期限より2週間早い6月8日、Join us at IAF2001事務局にエッセイ原稿と推薦状とを書留で発送した。

日頃お祈りの類をしない彼ではあるが、人が何事かの成就を心の底から求めるときは必ずそうするように、この時ばかりは我が事の成らんことを真摯に祈る。

第40話に続く)

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